奇岩と地下に掘られたキリスト教徒たちの隠れ家~ギョレメ国立公園およびカッパドキアの岩石遺跡群
中央アジア・トルコの中央部に位置する「カッパドキア」。紀元前6世紀に書かれた碑文にもその地名が残っている、歴史ある地域だ。
カッパドキア観光の中心となるのが、「ギョレメ国立公園」。そこは、「なぜ?」と首を傾げずにはいられない奇岩群と、「うわ!」と叫ばずにはいられない地下都市があることで知られている。
ギョレメ国立公園とカッパドキアの岩石遺跡群は、1985年に世界遺産に登録され、見どころの多いトルコの中でも、有数の観光地となっている。
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カッパドキアの歴史
トルコのカッパドキア地方には、後期青銅器時代から住民がいたことが分かっている。
古くは、ヒッタイト帝国軍の本拠地として栄えていたが、ヒッタイト帝国の滅亡後は、ペルシア王の影響下、地方封建貴族による軍政がしかれていた。
その後、統治者の一人だったアリアラテス1世によって、カッパドキアは独立し王国となる。カッパドキア王国は、シリアやマケドニアに従属しつつ、それに対抗するために共和政ローマと同盟するなど、政治的に不安定な状態が長く続いたといわれている。
強国の従属的地位ではありながら、王国として独立を保っていたカッパドキアだったが、紀元17年以降は、ローマの属州となった。
ローマ帝国分裂後は東ローマ帝国に属し、セルジューク朝、オスマン朝の支配の後、トルコ共和国内カッパドキア地方となり、現在に至る。
カッパドキアの魅力に隠された背景
4世紀頃、初期のキリスト教徒たちが、ローマ帝国の迫害から逃れてこの地に隠れ住んだことから、古代ローマ時代には既にキリスト教が伝播していたとされている。
彼らは、8世紀になりイスラム教がこの地に侵入すると、今後はイスラム教徒による迫害から逃れるために、隠れて暮らし続けた。
ギョレメでは、岩を掘って造られた家や通路、教会などを含む、地下都市が発見され、現在も調査が続けられている。
またカッパドキアには、その不思議な形状の岩「ペリバジャ」という名物がある。6000万年という途方もない過去から、火山によってできた柔らかい凝灰岩層に上に、少しずつ固い地層が堆積していった。それと同時に、風雨の影響で柔らかい下層部分が削られていった。そのため、頭でっかちな塔のような奇岩が出来上がったのだ。
カッパドキアで見られる奇岩たちは、その地域ごとに形が異なる。これは、風向きや強さなど、地域ごとの気候天候の特徴によって形づくられたと考えられている。
奇岩群と博物館
ギョレメ村は、カッパドキア観光の中心地であり、村そのものが奇岩でできているといってもいいほど、右を見ても左を見ても奇岩だらけだ。ギョレメ野外博物館は、村の中心からも近いので、散歩がてら出掛けてみよう。
博物館内には、ビザンティン時代の教会、修道院などが点在している。外側からは、ただの変わった形の岩にしか見えないが、内部には、美しいフレスコ画の描かれた岩窟教会が掘りぬいて造られている。
もう一つの博物館「ゼルベ野外博物館」は、街から5キロほど離れたところにある。ちょっと距離があるように感じるが、歩いて行く途中も奇岩だらけなので、だだっ広い屋外博物館のつもりできょろきょろと進んで行くと、意外にすぐたどり着ける。
ゼルベ屋外博物館では、ギョレメ屋外博物館ほどの美しさはないが、同じように堀り抜かれた岩窟教会や、つい数十年前まで実際に人が暮らしていた住居跡を見ることができる。
これらの岩窟群は、日本の公園の滑り台下にある空洞に共通する「かくれんぼの隠れ場所」的な雰囲気を持っている。覗き込むその瞬間まで、子ども心がくすぐられるが、内部は想像以上に生活設備が整えられ、美しく装飾されていて、迫害を受けたキリスト教徒たちにとって、実際の住いだったという事実と歴史を感じさせられる。
無数に掘られた巨大地下都市
初期キリスト教徒たちが、ローマ帝国の迫害から逃れて住んだのが、カッパドキアの地下都市の始まりだといわれている。
ローマ帝国は、後にキリスト教を国教として認めるが、続いてこの地を治めたイスラム教徒による迫害が、またもキリスト教徒たちを地下都市へと追い込んだ。
最大の地下都市「デリンクユ地下都市」は、地下85メートルもの深さがあるといわれている。住居のほか、食糧貯蔵庫・食堂・礼拝堂、さらには、厩舎や家畜部屋まであり、3~5万人規模の都市生活が営める、広さと設備が整っている。
また、危険が迫った時には、石によって内側から蓋をして、その存在を隠すことができるようになっている。人一人通るのがやっとの細い通路、途中にポツポツと開いた入り口、要所ごとに置かれた大きな丸い石のドア。なんだか、アドベンチャーものの映画かゲームの世界に入りこんだようだ。
現在公開されているもう一つの地下都市が「カイマクル地下都市」。デリンクユに比べると、上下の深さがないかわりに、横に広がっているのが特徴だ。デリンクユとは、地下通路で結ばれているらしい。
これらの地下都市は、長い歴史があるにもかかわらず、発見されたのはごく最近のことで、それも偶然の出来事だったという。大小未知数の地下都市が、現在もカッパドキアの地下に埋もれている。
そのほかの見どころ
ギョレメから見えている、ボコボコと穴がたくさん開いている奇妙な岩山は、「ウチヒサールの城砦」だ。この穴は、鳩を飼うためのもの。ここに鳩たちが落としていく糞を肥料として、ブドウを育てていたとのこと。
砦の頂上まで登ると、それはもう絶景。カッパドキアの奇岩がニョキニョキと生えた大地を、360度のパノラマで楽しむことができる。特に夕日が沈む頃は、観光客でいっぱいになるほどの名所だ。
ギョレメからゼルベへの道中にあるのが「バシャバー」。キノコ型奇岩が有名な地域だ。観光パンフレットなどでも良く見かける代表的な奇岩だが、実際に見るとかなり大きい。巨大なキノコ奇岩内部は、修道士たちが暮らしていたといわれていて、モンク(修道士)岩とも呼ばれている。
カッパドキアの中でも、その美しさで人を引きつける「ローズバレー」は、ローズ色の岩でできた峡谷だ。美しい景色と彫刻やフレスコ画が描かれた教会を目当てに訪れる観光客が多い。ギョレメから2キロとハイキングにちょうどよい距離なのもあり、夕日に合わせたハイキングツアーがたくさん組まれている。
岩や地下に隠れ住んでいた修道士たちも、時には、この美しい夕日を眺めたのだろうか。
ホットバルーン
カッパドキアでもっと熱いのが「ホットバルーン(熱気球)」観光だ。
世界有数のフライトポイントでもあり、早朝から日没まで、あちこちに大きな風船が浮かんでいるのを見ることができる。
荒野を歩いての観光に飽きた頃、バルーンフライトを体験すると、その解放感にやみつきになりそうだ。
ただし、現地のバルーンツアーの多くは、海外傷害保険の適用外となる。任意で新たに加入するか、日本からのパッケージツアーで最初からバルーンフライトが組み込まれているものを選ぶなどの、工夫が必要だ。
夜を中心とした観光
トルコといえば、ベリーダンス。ホテルやレストランでは、毎夜ショーが行われている。民族衣装を着た人たちが演奏組、踊り組に別れて、耳慣れない民族音楽と華やかな踊りを披露してくれる。
ベリーダンスはその中でももっとも人気のあるダンス。ホテルやレストランの格によって、ダンサーの技術に多少の差はあるようだが、お腹を出して、体の曲線を強調する踊りは共通。
観客が舞台に引っ張り出されて一緒に踊らされることもある。楽しい経験だが、苦手な人はダンサーたちと視線を合わせないように。
ベリーダンス以外に、袖や裾を長く翻しながらクルクルと回って踊る「旋回ダンス」もトルコの民族ダンスの一つ。見ている方も目が回るが、踊っている方ももちろんフラフラ。音楽がどんどんとスピードを上げて盛り上がっていくのに合わせ、ダンサーたちはトランス状態に入っていく。見ている側も、ハラハラしながら引きこまれて、グラスやフォークを握ったまま固まってしまい、目が離せなくなる。
お風呂好きなら見逃せないのが、「ハマム」と呼ばれるアラブ式サウナ施設。ホテルに併設されているハマムは、大理石のゴージャスな浴場で、マッサージや垢すりを受けられる。街中には庶民用のハマムもあり、銭湯感覚でくつろぐおじさんたちでいっぱいだ。
当然男女別。普段は黒いチャドルで全身を覆っている女性たちも、一歩女性専用エリアに入れば普通の女の子と同じ。お互いの化粧品や下着に興味津津な様子がほほえましい。彼女たちも隠れたところではしっかりオシャレをしているのが分かって、言葉は通じなくとも、ファッションへの興味は共通だと感じられる。
洞窟ホテルを選ぶ時の注意
カッパドキアに来たら、やっぱり泊まりたいのが洞窟ホテル。伝説では、奇岩の下には妖精が暮らしているとか。観光客も妖精になって泊まれる洞窟がたくさんある。
洞窟そのものを改造して作ったホテルもあれば、洞窟風にアレンジして建てられたホテルもある。設備の点からいうと、後者のほうが整っていることが多いが、ここはやはり、多少不便でも「本物」に泊まりたい。
予約する際には、本物か洞窟風かを確認しよう。
なんとなく柔らかな触り心地の壁でできた丸い空間は、不思議と気分を落ち着かせてくれる。前世は洞窟生活をしていたのかな、なんて思わせてくれる体験だ。
観光地だけあって、安宿も高級ホテルもいろいろと選べる。特にギョレメでは、宿泊先に困ることはないだろう。
食事はカッパドキア名物「壺ケバブ」に挑戦
カッパドキア地方の名物に「壺ケバブ」がある。ケバブは羊肉などのBBQだが、ここでは素焼きの壺に肉や野菜を入れて壺ごとオーブンで焼いてしまう。
食べる時には、その壺を割って食べるのだ。レストランの前に、割れた壺の山ができていれば、その店のメニューに壺ケバブがある証拠。
また、バス乗り場やお土産物屋が並ぶ通りには、安くテイクアウトできるケバブショップがたくさんあり、目の前で削り取った肉と野菜でケバブサンドを作ってくれる。
アクセス
カッパドキアの観光中心地から40キロほど離れたところにある「ネブシェヒル・カッパドキア空港」へは、イスタンブルからの航空便が毎日運航している。
「カイセリ空港」は、ネブシェヒル空港よりも少し遠いが、運行数が多く、カッパドキアの街やホテルへのシャトルバスも走っている。
また、トルコ国内を縦横無尽に走るバスが、ここカッパドキアにもやってくる。トルコの主な都市から直行の夜行バスがあって手軽で便利だ。イスタンブルからは12時間、アンカラからは5時間ほど。
旅の注意点
冬はかなり気温が下がり、雪も降る。徒歩中心の観光地であるカッパドキアの冬の観光はあまりおすすめできない。
しかし、リピーターであれば、雪帽子をかぶった奇岩など、違った風景を楽しむことができるだろう。
旅行代理店やお土産物屋などでは、客の呼び込み競争が激しい。ズルズルと捕まって入りこんでしまうと、なかなか解放してもらえず、時間をロスすることになるので注意しよう。
また、バスで移動中も、停留所で言葉巧みに誘う旅行代理店の売り子たちが乗りこんでくることがある。代理店を通さなければできないようなことは、まずない。甘い誘惑の声に負けず、目的地まで真っ直ぐに進んだほうがよい。
最後に
カッパドキアでの旅は、巨大な奇岩とその中に掘られた美しい教会、そのミスマッチに驚きの連続となる。
風化によって出来上がった風変りな自然造形物は世界中にあるが、その中に住居が堀られ、その地下に都市が作られている場所は多くないだろう。
発見が最近であり、研究や調査がまだ途中であることも、カッパドキアの不思議な魅力を増している。人はみな謎に興味をひかれるものなのだ。
そこを訪れた人しか感じることのできない感動を、写真、動画、そして言葉で表現してみませんか? あなたの旅の話を聞かせてください。
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