中世の姿を今に残す街がまるごと世界遺産~ブルッヘ(ブルージュ)
北のヴェニスとも呼ばれるブルッヘは、ベルギーの海岸から10キロほど内陸にあり、大きな川が流れているわけでもないが、水の都として繁栄した不思議な過去を持つ。
中世の古い街並みがそのままの姿で残っていて、石畳の路地が街を四角く刻み、水路が周囲を囲むように流れている。
街では観光馬車がカコカコと石を鳴らして進み、運河では観光用のボートを操る船頭の声と白鳥たちの鳴き声が響いている。
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津波によって作られた水路の街
初代フランドル伯が城塞を建てたのが9世紀のこと。住民が増えるに従い、城塞は強化され、教会も建てられ、街として発展していくかと思われた。
ところが、12世紀に大津波が街を襲い、大きな傷跡を残したが、ブルッヘは、津波によって出来た溝を運河とし、街と海をつなぐ水路を整備した。
街中にまで整備された水路のおかげで非常に交易に有利となったブルッヘの街は、北欧における金融と貿易の中心として繁栄するようになった。
ブルッヘで見られる鐘楼は、ブルッヘ市民によって建造されたもので、いかに彼らが裕福であり、権力を持っていたかが分かる。
中世の面影を残すわけ
ブルッヘの繁栄は、15世紀以降、船舶の大型化や運河の土砂堆積によって、運河のもたらす富が激減し街も衰退していった。
ベルギー独立後の19世紀に入ってから、運河をはじめとし、すっかり寂れていた街は修復・再生され、世界大戦中も、直接攻撃を受けることがなかった。
街の発展が中世で停滞したことが、中世の面影を残す結果となった。特に、運河沿いや旧市街地には、古いレンガ造りの建造物が多く、21世紀とは思えないメルヘンかファンタジーの世界のような景観を目にすることができる。
ブルッヘ歴史地区
ブルッヘとは、街のいたる所に見られる「橋」にちなんだ名称で、ブリュージュ(フランス語)、ブルージュ(英語)などとも呼ばれる。
運河に区切られた赤レンガの街並みを持つ街全体が、世界遺産として登録されている。
見逃せない建造物たち
見どころばかりのブルッヘの中でも、特に見逃せない建造物がいくつかある。
まずは、「聖母大聖堂(聖母教会)」があげられる。13世紀に建てられたゴシック様式の教会で、122メートルある尖塔は、レンガで作られたものとしては、ヨーロッパでもっとも高いと言われている。
ミケランジェロによる聖母子像が保管されているほか、豪胆公・無鉄砲公・軽率公などの称号を持つブルゴーニュ公シャルルと、若くして亡くなったその娘の墓もある。
「聖血寺院(聖血礼拝堂)」には、建造された当時のロマネスク調を保つ下部礼拝堂とネオゴシック調に改修された上部礼拝堂があり、上部には、十字軍遠征の際にエルサレムから持ち帰ったとされる聖遺物「聖血の染みついた羊の皮」が置かれている。下部には、14世紀から今に至るまで信仰を集めている「よき救いの聖母像」が置かれている。
毎年5月には「聖血の行列」というパレートが行われる。十字軍の騎士をはじめとした中世の衣装をまとった市民たちが聖遺物箱とともに、街を練り歩く伝統行事だ。ブルッヘを舞台とした「死の都」という小説・オペラでも重要なシーンとして登場する。
ベルギーとフランスの鐘楼群
ベルギーとフランスにまたがって存在する56の鐘楼は、まとめて世界遺産に登録されている。
ブルッヘにはベルギー最大級の市民によって建てられた鐘楼がある。47個もの鐘が設置されているが、ただの鐘ではない。時を告げる鐘であると同時に、専門の演奏者を必要とする楽器でもあり、定期的にコンサートも開かれている。
366段といわれる階段を上りつめれば、鐘楼頂上からブルッヘ全景を楽しむことができる。
ベギン会修道院
世界遺産である、「フランドル地方のベギン会修道院群」に含まれる。修道院と呼ばれるが、出家はせず、自給自足と祈りの生活を選んだ女性たちの共同生活所のような存在だった。
ブルッヘのベギン会修道院は、十字軍遠征から戻らなかった兵士の未亡人たちのために設立されたといわれ、外界との接触を断ち、質素に暮らした彼女たち思想を体現するように、広い庭を中心として、白い壁のシンプルな建物が並ぶ、穏やかな佇まいだ。
現在は、他宗派ではあるがやはり修道女たちが静かに暮らしている。
3大ミュージアム
「グルニング美術館」は、15~20世紀のベルギー美術を収めたミュージアムで、ファン・エイク、メムリンク、ブリューゲルらの作品が収められている。古い領主の邸宅を改造したもので、建物自体も芸術品だ。
「メムリンク美術館」は、ブルッヘで活躍した初期フランドル派画家の作品をはじめとし、16世紀頃のブルッヘの作品が集められている。12世紀創建の聖ヨハネ病院が前身であり、中世の医療展示があって、興味深い。
「グルートフーズ美術館」は、15世紀に建てられたブルッヘ領主の邸宅跡を改造したもので、絵画や彫刻などの美術品のほか、家具、磁器、タペストリー、装飾品、楽器、武器、聖具などが展示されている。
また、邸内の祈祷室は、聖母大聖堂の内陣に直結している。領主は、専用の通路から教会への出入りができる仕組みになっていたわけだ。
広場
ブルッヘには、「マルクト広場」と「ブルグ広場」がある。
街の中心であるマルクト広場には、鐘楼・郵便局・政府庁舎などがあり、朝市が開かれたり、季節のイベントが行われることが多い。馬車がトコトコと通り過ぎるのどかさで、食事や買い物もできる。ついつい長居してしまう場所だ。
ブルグ広場は、古くは城が建てられていた場所で、マルクト広場とも近いが、規模は小さめだ。市庁舎・聖血寺院などがあり、運河クルーズの発着場への抜け道もあるので、利用したい。
どちらの公園も夜間はライトアップされ、美味しい料理を食べながら、異国情緒だけでなくタイムスリップ気分も味わえる。
運河観光
ブルッヘの街は歩いても十分見て回ることができるが、せっかくある運河を利用しない手はない。
30人ほどが乗れる小振りな船、というよりもボートが15分間隔くらいで出港していく。英語のガイド付きだ。グルリと1周して戻ってくるのに30分ほどの船旅だ。
運河の両側は、水上に建てられたレンガ造りの建物や緑の並木、頭上は青空か橋。浅い運河に掛けられた橋は低く、写真を撮ろうと立ちあがったままでいると、危ないほどだ。
運河沿いを流れていくと、運河に張り出すテラス式のレストランが何カ所もあり、地元客たちがゆっくりと食事や酒を楽しんでいる様子をうらやましく眺めることになる。
ブルッヘで食べておきたいもの
食べ物で一番人気はチョコレート。ベルギーだけに、チョコレート専門店をあちこちで見かける。また、レストランのデザートでも、カフェのお菓子にもチョコレートソースがたっぷりかかっている。甘いもの好きにはたまらない魅力だ。
人気の食事はシーフード料理。魚だけでなく、ムール貝などの貝類も新鮮でおいしい。また、味付けも日本人の口に合う。ただし、全体的に量が多いので、注文する際には人数や空腹加減とよく相談してからにしたほうが良い。
また、街角で売られるパンがおいしく、朝はあちこちのパン屋から漂ってくる匂いに誘われていけば、美味しい朝食にありつけるだろう。ワッフルももちろんあちこちで売られていて、大判で厚いワッフルにたっぷりのチョコレートソースをかけて食べる幸せを噛みしめられる。
ワインもいいが、地ビールで乾杯
飲み物はやはりビール。地ビールがあり、街には醸造所もある。「デ・ハルフェマーン」は、6代続く家族経営の地ビール醸造所で、さまざまな形で地ビールを味わえるコースを設けている。
テイスティングと軽食・食事・見学などがセットされたコースでは、地ビールだけでなく、小麦やフルーツなどを使用した発酵ビールも試せる。主に団体向けなので、滞在先のホテルやツアー会社に問い合わせてみるとよい。
個人でも見学は可能。またビアカフェとレストランが併設されていて、本格的な料理とそれに合わせたビールを楽しめるので、是非訪れたい。
最後に
絵本か絵画を題材とした映画のセットにでも迷い込んだような街がブルッヘだ。しかし、セットと異なるのは、どちらを向いても裏側を覗いても、張りボテではない本物であるということ。
歴史的な建造物が小さな街に凝縮されているため、非常に観光しやすい街でもある。近隣の国や地域から訪れる観光客の多くは日帰りだ。
しかし、夜のライトアップされた街と香ばしい香り漂う朝の街、そして観光客に優しい昼の街、どれも味わうために1泊はしたいところだ。
そこを訪れた人しか感じることのできない感動を、写真、動画、そして言葉で表現してみませんか? あなたの旅の話を聞かせてください。
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