カルパティア山脈のブナ原生林とスロバキア側の木造教会群

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日本人の自然愛とわびさびを刺激する世界遺産~カルパティア山脈のブナ原生林とカルパティア山脈地域のスロバキア側の木造教会群/スロバキア

カルパティア山脈は、スロバキア・ポーランド・ウクライナ・ルーマニア・チェコ・ハンガリー・セルビアといったヨーロッパの中央と東部に大きく広がり深く根を張り高く聳えている。

アルプスのような峻嶮さや知名度はないが、その山が抱く手つかずの自然と麓に点在する古き良き時代の面影を今も残す町や村と人々の暮らしはそこを訪れる人をもれなく虜にする。そしてこれらのヨーロッパの宝は世界遺産にも登録されている。

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カルパティア山脈のブナ原生林

カルパティア山脈における最も高い山は標高2663m。世界的に見ればそれほど高いわけではないが、緯度の高さもあり、夏の涼しさ冬の寒さはかなりのもの。深い原生林が形成されていて、スロバキアとルーマニアとドイツにまたがる部分は「カルパティア山脈のブナ原生林」として世界遺産に登録されている。

ヨーロッパの森は開発と農耕地拡大、そして狼による被害などの問題を抱え、縮小傾向にあるが、ここにはまだ広く深い原生林が残っている。落葉樹で構成された森林は、季節ごとに美しい姿を見せつけ、多くの生き物の棲息も助けている。

夏の避暑地として、通年を通してハイキングやトレッキング目的地として、冬のスキー行楽地としてと、ヨーロッパ屈指の観光地にもなっている。また、温泉施設が古くから整っている観光地も多いのも特徴。日本人好みの景色と山歩きと温泉に素朴な田舎料理の組み合わせを楽しめる。

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カルパティア山脈周辺の世界遺産

古代から豊かな森として動物や植物たちだけでなく、人もまた育んできたカルパティア山脈の周辺には、綿々と続く人の暮らしを伝える建造物が多く残されている。

特に中世に宗教改革の影響を強く受けた教会は、宗派ごとに独特の姿を持っている。1村1教会といった雰囲気の村や町が多く、集落ごとに異なる宗派の信仰を持つものが集まり、それぞれのスタイルに則った教会を持っていたことが覗える50か所あまりの木造建築が残されている。

その内の9件が「カルパティア山脈地域のスロバキア側の木造教会群」として世界遺産に登録されているほか、「レヴォチャ歴史地区、スピシュスキー城及びその関連する文化財」、「ヴルコリニェツ」が比較的近隣に、「アグテレク・カルストとスロバキア・カルストの洞窟群」、「バルデヨフ市街保護区」、「バンスカー・シュティアヴニツァ歴史都市と近隣の工業建築物群」がハンガリーとの国境付近などにある。

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中央・東ヨーロッパに残る木造建築物と宗派とショプロン会議

中世ならば、建築材料が木材しかなかったわけではもちろんない。山の中であろうが、都市部であろうが、石で堅牢に作られた建造物のほうが多いくらいだ。しかし、中央・東ヨーロッパに残され、世界遺産登録もされている教会の中には、木造建築のものが少なくない。

スロバキア側の木造教会群として指定を受けている教会には、木造建築しか許されなかったという背景がある。また、本来の教会にはつきものであるはずの鐘楼が見当たらないものもある。

これらは、1681年のショプロン会議によって、プロテスタントの新しい教会は時間をかけず1年以内に建造しなければならないこと、木造に限り鉄釘を使ってはいけないこと、鐘楼などの塔を持ってはいけないことなどの厳しい制約を受けたことが理由だ。この制約を守った結果が、まるで積み木を重ねたような独特の姿の教会堂がデザインされたのだ。

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カルパティア山脈地域のスロバキア側の木造教会群

8か所の教会と鐘楼とが「カルパティア山脈地域のスロバキア側の木造教会群」として2008年に世界遺産に登録された。登録理由は建築様式の珍しさ・技術の素晴らしさ・景観の美しさと、1つの地域内に複数の異なる宗教が共存してきたことにある。

また、異なる宗教とは、「ローマ・カトリック」・「プロテスタント」・「東方正教会」・「東方典礼カトリック教会」などのこと。キリスト教系ではあっても宗派が異なる人々や団体が、隣り合う村や町で争うことなく平和に共存してきたことは、周辺地域に今も当時のままの暮らしぶりが残っていることから推測することができる。

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ヘルヴァルトウのアッシジの聖フランチェスコ教会

ヘルヴァルトウの中心にあり、ほかの教会に比べて訪れる観光客も多い「アッシジの聖フランチェスコ教会」は、ローマ・カトリック系ではスロバキア最古ともいわれる。

当時の木造建築にしては、横ではなく縦に長いという構造上はバランスが悪く、見た目は美しい姿を保っている。見た目には木造だが、実は床に石が使われているのもこの教会の特徴。

内部の木の壁にはぎっしりと宗教画が描きこまれている。その題材が宗教に詳しくなくても分かりやすい「アダムとイブ」や「ドラゴン退治」「最後の晩餐」などなので親近感が湧く。

建物自体の保存状態が良く、15世紀頃の建造だと推測されているほか、小さいながらも壮麗な祭壇は20世紀に修復されたもの、貴重な壁画は17世紀に描かれたものだという。

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トゥヴルドシーンの諸聖人教会

こちらもローマ・カトリック教会で、一時はプロテスタント系の教会堂として使用されていたこともある。

15世紀後半のゴシック建築だが、プロテスタント教会となった時に改修工事が行われて一部がルネサンス風に変えられた。日本の豪農の大きな茅葺屋根住宅のような姿に親しみを感じる。

主祭壇や壁の貴重な宗教壁画は17世紀のもの。ここには星空を描いた天井画があったが世界大戦中にブタペストの博物館へと移されてしまった。しかし、澄んだ空気のこの地域では当時も今も同じ満天の星空を見上げることができる。

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ケジュマロクの教会

プロテスタント系の教会で釘は1本も使用されていない。スロバキア内には5か所のプロテスタント木造教会が残されているが、ここの壁画・彫刻などの内装は素晴らしさで突出している。

定期的に修復の手が入る大きな教会で、自慢の木造パイプオルガンを使ったコンサートなどが今も開かれることがある。

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レシュティニの教会

17世紀の建造当時はプロテスタントに許されたシンプルな教会堂だけだったが、18世紀に入って塔が増築された。またオリジナルの身廊部分の壁画は色鮮やかな花模様。全体に優しい雰囲気を持つ、女性たちに人気のある教会だ。

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フロンセクの教会

同じくプロテスタント系。上から見ると十字架型の教会だが、正面から見ると大きな雪蓑笠のような姿をしていて、ほかの木造教会とはその姿が異なる。そのデザインから、建造には北ヨーロッパの職人が訪れて腕を奮ったと考えられている。

ボドルジャルの聖ニコラオス教会と大天使聖ミカエル教会

この二つの教会は良く似ている。聖ミカエル教会は聖ニコラオス教会を見本に建てられたのではないかとも考えられているほどだ。

どちらもスロバキア内では東方教会系最古の聖堂の一つ。ロシア風の趣きを感じるのは、玉ねぎ型のドームのせいだろう。

保存状態が非常によく、建物そのものはもちろん、内部の壁画やイコンも色鮮やかで見ごたえがある。

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ルスカー・ビストラーの聖ニコラオス教会

全体像は農家風だが、小さな玉ねぎの塔や三角や四角を組み合わせた積み木風建築はやはり木造ながら教会であることを教えてくれる。

内装に派手さはないが、作り手の信仰の深さと、実際にここで祈りを捧げる人々の質実剛健な生活ぶりが伝わってくる。

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最後に

カルパティア山脈の原生林は、ただただその範囲が広すぎ、木造教会たちはその1つ1つが小さく目立たない。そのくせ、それぞれが一定の距離を取って離れた位置に存在している。これが、世界遺産であるにも関わらずこのエリアを訪れる人が少ない理由だろう。

しかし、どれも近くはないが、車を使えば1~3時間程度のドライブで辿りつける。1日で回れる数は少ないが、1週間程度あれば、スロバキアの世界遺産踏破も夢ではないし、派手でないがこの渋い味わいは日本人好みなのではないだろうか。

そこを訪れた人しか感じることのできない感動を、写真、動画、そして言葉で表現してみませんか? あなたの旅の話を聞かせてください。

 

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Category: 世界遺産
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